サードステージ考察


 










 深夜十一時。
 栃木。日光第二いろは坂、終点。
 明智平駐車場にて。


「今日はよぉ、仕事終わらねぇかと思ったぜ」
「お、来れたのかよ。お疲れさん……と。ああッ!?」
「あっ、てめぇ!!」
「そのカッコ……ッ!」
 その場にたむろしていた面々が、新たに到着したランエボから降り立った男へ一斉に太い指を突きつけた。
「シーッ!シーッ!」
 必死の形相で男が制止するも虚しく。
「京一さんコスーーーッ!!」
 深夜の明智平に、野太い雄叫びが重なった。
「でけぇ声で言うな馬鹿ッ」
「黙れ。んな事していいと思ってんのか!?」
「違うッこれはだな、今日仕事で―――」
「見えすいたウソついてんじゃねえ!」
「お前の仕事、営業じゃねぇかよッ」
「見苦しいぞ!」
 見苦しいのは果たしてどちらなのか。
 男の醜い嫉妬むき出しで口々に糾弾する。

 と、その時。

「―――うるせぇぞお前ら」
 すぐ傍らの茂みから、がっしりした人影がむくりと起きあがった。
「う…げ……ッ」
「きょ、京一さんッ」
「いつからそこに」
「ったく。おちおち昼寝もできやしねぇ」

―――今は昼じゃなくて夜です京一さん。

 とは誰もが思っても突っ込まず突っ込めず。
「すいませんでしたッ!」
「くっちゃべってる暇があったら走り込みして来い。遅ぇヤツは首切るぞ」
 冷ややかな眸が男達をじろりと睨む。
「押忍ッ!」
 直立不動での重低音が輪唱した。

 ザクザクと京一の足音が遠ざかっていく。

「……ふぅ、焦ったぜ」
「迫力……」
「でもやっぱ格好いいよなァ京一さん」
「だよなー」
「真似したくもなるよなぁ?」
「そうだろそうだろ?」
 勢いを得て声が喜色を滲ませる。
 白いバンダナの端が得意げにひらりと夜を舞った。
「……ってお前!」
「やっぱ京一さんコスじゃねぇかーーーッッ!」
「あ……ちくしょう、てめぇらカマかけやがったなッ!?」
「ふん、誘導尋問と言え」
「引っかかったてめぇが悪いんだろ、阿呆が」
「お前らだってエボ買っただろ!?京一さんの真似じゃねえか!でもって、そうまでしてココ入りたかったんだろ!?憧れてんだろ惚れてんだろ!?」
 それなら俺と同じじゃねぇかよ!!
 身の潔白を声が叫ぶ。
「何だとォッ!?」
 図星を突かれた男どもが色めき立った。
 触れてはならぬ暗黙の―――明智平に秘められたそれは。
 彼らの結束を固めているいしずえ。
「それとこれとは話が別だッ」
「抜け駆けしといてふざけた事言ってんじゃねぇぞッ」
「協定を破る気かッ!?」

 あわや一触即発。

「―――うるせぇって言っただろうが!!」
 遠方から疾った鋭い声が、耳に突き刺さる。
「すッ、すいませぇええええええんん!」
 育ち過ぎた図体をちぢめ、怯えた瞳を揺らす男どもの大合唱になった。

 むさ苦しさの極みとは言え。
 ある意味それは可愛いらしい光景かも知れない。

 エンペラー。
 いろは坂に君臨する精鋭揃いのランエボ軍団。
 その名は恐怖の囁きとともに県外まであまねく鳴り響いている。
 だが、その実態は――――――。


 忠犬の集合体。





 本日のえんぺらーず。



                                    終わり。






 走り込みさせといて自分は寝てんのか京一。