清次。改名時の考察 |
いささか古いが、原作の謎のひとつ。 『清次から清二へ。改名時における考察』 深夜11時。 栃木。日光第二いろは坂、終点。 明智平駐車場にて。 ドォオゥン―――と大気が震動するような重低音とともに、漆黒のランエボが滑り込んできた。 「あ、京一さんッ」 「お疲れ様ッす!」 その場に群れ集っていた男達が一斉に振り向いて、チームリーダーを迎える。 その中から。 「京一ィ―――ッ」 夜目にも白い紙切れを片手にした男が、勇んだ声をあげながら京一の元へと駆け寄ってきた。 ここで京一をそう呼ぶ人間は他にいない。清次である。 「何だ」 「俺、名前変わったんだぜ!」 「……どう変えたんだ」 なぜ変わったのかという理由に興味を持つでもなく、エンジンを切りながら京一が面倒臭そうな口調で結果だけを尋ねた。ターボタイマーが規則正しいビープ音を発し始める。 「見ろよこれ」 清次が得意げに差し出した紙片には、黒々とした達筆で。 岩城清二。 と書き付けられていた。 だが。 「…………」 片手をステアリングに乗せたまま、数秒の間それを見つめた京一は。 「どこが変わったんだ?」 平然とした顔で問い返したのである。 「…………」 唖然とした表情の清次が、穴のあくほど京一の顔を見つめる。 ターボタイマーが沈黙して、二人の周囲には痛いほどの静寂が訪れた。 だが京一は頓着しない。 「同じじゃねぇか。それとも読みが変わったのか」 あたかも追い打ちをかけるかのように問いを重ねた。 「……そりゃねェだろ京一!?俺とこれだけ長いことつるんでて……」 「長い?まだ1年しか経ってねぇぞ」 「言葉のアヤだろうが!!そういうことじゃなくてだなァ!………もういいッ」 清次がわめいた。そう長くはない堪忍袋の緒が切れたらしい。 「いいのか。そうか、よかったな」 「全然よくねェよ!!」 意思の疎通もなければ会話も全然かみ合っていない主従ではあった。 よく見れば清次の目じりには悔し涙すら滲んでいたのだが、当然のごとく京一はそんなものを見てはいない。 「吠えるな。うるせぇ」 「きょ、きょうい……ッ」 降りられねぇだろ邪魔だどけ、と手で払われた清次の声が夜の明智平に長く細く響いたが、そんなことには委細構わず漆黒のランエボから降り立った男はあっさりと背を向けた。 すがるように伸ばされた清次の手が、京一の肩をかすりもしないまま虚しく空を掴みパタリと落ちる。 少し離れた場所では、くわえ煙草で成り行きの一部始終を目にしていた速見が「あーあ」と肩をすくめながら両手を広げていたのだった。 「なに照れてんだ清次、サムいからやめろ。いいからそれ持って早くそこに立てって」 「ううう、うるせえ速見ッ。てめェの指図は受けねェぞ!」 「―――何で俺がこんな茶番に付き合わなきゃならねぇんだ」 「まぁいいじゃないッすか」 京一さんのナマ写真なら金払ってでも欲しいって連中は多いんですよ。 何に使うんだか。 ―――やだねえ。 「おい清次。もう少し京一さんの方に寄れよ」 「う?お、おう」 ザリ―――。 「……やけに素直だな。指図は受けねえんじゃなかったのか」 京一さんとくっつけるんならいいってか。 どーでもいいけど顔ゆるんでるぞ清次。 「あん?」 「お前もつくづく分かりやすいヤツだね」 ホホまで染めちゃって、まあ。 「何か言ったか!?」 「いーや、何にも。はい、もっと寄って寄ってー」 「……ッたくよう、しょうがねェな」 ジャリ――――。 ガスッ。 「―――寄るな」 「つ…ぁ。いきなり何すんだ京一、痛ェだろ!?」 「暑苦しいツラを寄せるんじゃねぇ」 「ひ、ひでえェよ京一ッ!!」 「黙れ。耳元でがなるな」 「ぅぅうぅうッ」 「抑えろ清次。ほら京一さんも仏頂面してないで。笑ってもカオ減らないッすよー」 「…………………」 「それじゃいきまーッす」 「お、おうッ」 「さっさと終わらせろ」 「はいはい。っと、じゃあ。いち、にぃの―――」 「―――さん」 カシャ―――カシャ。ジ―――。 パシャ。
繭良コメント: 清二じゃなくて清次だろ。気づいてやれよ京一。 最近、この男はただの素ボケじゃないのかと疑うこともありますが、まぁこういうのもそれなり幸せかも知れませんね。 あ、そうだ。速見、それ一枚こっそり回せよ。もちろんタダでな? 高堂香氏コメント: いちひめにたろう。 本日のえんぺらーずを読んだときからこの言葉が頭から離れなくなりました(笑) (だれが姫なんでしょうか。ああっ) 相変わらず、きらきらしてしまいましたが照れてる清次君(清二君??)が描けて楽しかったです。 |
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