正しい車載ビデオの使い方 |
カリッ―――。 「ツ……ぅ」 「わりィ……ッ」 「がっつくんじゃねぇよ。ガキじゃあるまいし」 胸に顔を埋めている清次を眺め下ろしながら京一が息を吐く。歯を立てて囓られた突起が痛んでうずいていた。 「ひとつ聞くが」 「……なんだよ」 「お前、男を犯ったことあるのか?」 「………ああ」 京一の問いに対して、いかにも気まずそうな顔をしながら清次が頷いた。 「ほう?男抱く趣味もあったのか」 「ねェよッ。二回だけだ!」 思わず馬鹿正直に回数まで申告してしまってから清次が狼狽える。 「一度ならともかく次があったんなら十分だと思うが」 頭上で含み笑う気配がした。 「………京一。やる気ねェだろ」 「あるぜ?お前がやめるんならやめてもいいけどよ」 「こっち……全然勃ってねェぞ」 言いながら、ためらいがちに京一へと乗り上げた清次が腰の前を押しつける。 大きさと硬さを充実させているのは、清次のものだけだった。 「切り替わるまではこうなんだよ」 「……切り替わる?」 耳にした清次が怪訝そうな表情を見せる。 「ああ。そろそろ……やるか」 意味不明なことを呟いた京一は。 「そいつとはどうやったんだよ」 前からか後ろからかと臆面もなく口にした。 「どうって……後ろからだったけどよ……」 言いにくそうに言ってから、それが何か関係あるのかと清次が目の色で京一に尋ねる。 「まぁその方が楽だろうな」 「京一?」 身軽く躰を起こした男に問いかけた。 「前戯はいらねぇよ。それ塗って……挿れろよ」 目顔でベッドの脇を指す。 黒い蓋のついた透明なチューブ。 気の向いた時おりに清次へと手を伸ばしていた京一が使っていたものだった。 「何かよ、こう…ムードってもんが足らなくねェか、京一」 清次が情けなさそうな声で訴える。 「うるせぇな。やるのかやらねぇのかどっちかにしろ」 ベッドを降りた京一はその脇の壁にダン!と手を突いた。 「―――俺の気が変わらないうちにな」 清次を振り返ったその顔には、煩わしげな表情が浮かんでいる。 「………分かった」 あきらめたように言った清次は、透明なジェルが入っているチューブをその手に取った。 「……ハ…ァ……」 今までの経験が京一にそう教えているのだろうか。 男を受け入れる際に躰へ負担がかからぬよう、清次が口にせずとも自らゆっくりと深く息を吐いている京一の背中を見つめながら、息苦しい思いにとらわれる。 やり方を―――抱かれ方をすでに知っている京一に対して湧き上がる、怒りにも似たそれを覚えていた。 潤滑剤に濡れた指先でくぼみの奥を丹念にほぐされたとはいえ、硬く昂ぶった清次の漲りを受け入れようとしている京一の背には、冷たい汗が滲んでいる。 もともと体温の低い京一の躰だったが、今はさらにその皮膚温度をさげている。 壁についた両手の指先は折り曲げられ、節の長い指のその間接は、強い圧迫に不自然なまでの白さを浮き上がらせていた。 「京一、躰がつれェなら………」 「―――どうなんだよ、やめるのか」 浅い息を吐きながらも、為しかけていることの放棄を許さぬ声。 その声に背を押されて、清次はゆっくりと身を進めた。 「―――ぅぐッ」 低くうめいた京一を傷つけぬよう、細心の注意を払いながら時間をかけて奥までを貫く。 清次の額にも冷たい汗が浮かび、京一の背の上に滴った。 「………京一…これで……」 「そうか、よ」 全部入ったと教える声に、苦しげな浅い呼吸を繰り返していた京一が躰の力を抜いた。 弛緩する背中のしなやかさが、清次に手を伸ばさせる。 背後から清次に抱きすくめられた途端、京一が反射的に身を強ばらせた。 「……ッう!」 きつく締め付けられてうめいた清次が、京一を抱きしめたままで動きを止める。 腕にした京一の躰。 硬い弾力のかえる確かな感触。 冷たい汗を滲ませる表面とは裏腹に、とろけるように熱い最奥。 「……う……」 自分の漲りをしめ付ける内壁を感じて、清次がこらえ切れぬような吐息をもらす。 「京一……」 低くかすかに。 「………抱きたかった」 うめくような清次の声だった。 お前が欲しかった、ずっと焦がれていたと聞こえた。 「そんなに飢えてたのか?女の一人や二人ぐらいキープしておけ」 背中は、浅い息の下から少し笑ったようだった。 「俺は……お前とは違う」 飢えてたのはこれにじゃねェ。 「……京一」 お前にだ……京一。 名を呼ぶのは欲しいからだ。 躰を抱くのは所有したいからだ―――お前を求めて。 俺は、自分が男だから抱きたいんじゃねェ。 お前だからだ、京一。 なぜお前にはそれが分からねェ? ……京一。 ―――く、そ……ッ。 躰が震える。 こんなにも愛おしい者を前にして、俺は―――。 ―――ただ身を震わせていることしかできねェのか。 腕に抱く躰の奥までを深く抉りながら、清次がうめく。 京一を抱いているのは自分なのに、まるで、京一に抱かれているようにも感じていた。 「………京一」 腕の中にある京一の首筋に顔を埋めながら、貫いている躰の中で動かずに感情の波をこらえようとする。 「俺はそう簡単には壊れねぇ―――好きに抱けよ」 清次は、そう言った京一の躰が次第に熱を帯びていくのを感じていた。 少しずつ体温が上昇している。 浅く、そして熱く息づきはじめた京一の躰。 そっと腰の前に回した清次は、手のひらに触れた硬い昴りに息を飲む。 「……ぅ」 勃ちあがった性器を握られて息を止めた京一の内壁が、熱を持って清次に吸い付いた。 思わずぐ と奥を突き上げる。 「―――は…あっ」 擦られた場所に、跳ね上がりそうな力をたわめる背中。 「…ア……きょう……い……ッ」 目眩を覚えるような快感に、清次の意識が白く吹き飛びそうになる。 腕にした躰を突き上げて、無我夢中のまま快楽を追い求め始めた。 奥底から込み上げてくるものがある。 それは強すぎる欲望なのか深すぎる慟哭なのか、清次にはもう分からなかった。 「ん…うッ」 京一が、躰を波打たせながら荒い息を吐き出した。 塗り込めたローションが熱い体温に溶けて、ぱたりと床に滴り落ちる。 「……は……ァ……」 京一の背が洩らした吐息はこらえるように掠れていて、まるであえぎのように甘く聞こえて。 脳髄の奥を白く灼かれた清次が、せわしなく息を荒がせる。 ただれる意識のままに、打ち付ける腰で京一の奥までを深く抉った。 「―――う、ぐ……ッ!」 強靱な筋肉に覆われた背が跳ねるのを許さずに、強く腰を掴んで引き寄せる。 間をおかずに突き上げた。 「―――ッ!!」 清次に巻きついている熱い肉壁が痙攣する。 がりり、と京一の爪が壁をひっかいた。 灰色の壁紙に数条のささくれが跡を残す。 「……せい、じ」 がくりと京一の膝が力を失っていく。 「う、あ…ッ」 汗で滑る京一の躰を支えきれず、そのまま傍らのベッドへと倒れ込む。 逞しい躰を胸に受け止めた清次の呼吸も、これ以上ないというぐらいに荒く弾んでいる。 失ってしまったぬくもりと快感を取り戻そうと、せわしなく京一の躰に手を伸ばす。 両脚を腕に抱えてぐ―――と身を進めた。 京一のくぼみに濡れた怒張の先端があたる。 「この体勢は…あんまり好きじゃねぇんだが」 苦笑するような声を耳元で聞きながら、清次は京一の首筋に顔を埋めた。 「……つべこべ言ってんじゃねェよ」 睦言のような秘やかさを声に滲ませながら、汗に濡れた肌にゆっくりと舌を伸ばす。 塩気のある甘みが口の中に広がった。 飽かずに舐めとりながら、自分の漲りに手を添えて京一の中へと突き入れる。 今まで清次を収めていたそこは、もうだいぶ解きほぐされてはいたが、それでも。 「―――う、ぐッ!」 シーツの上で弛緩していた腕に腱が浮き出し、節の張った長い指が白い布を鷲掴みにする。 「キツイか……?」 突き上げたいという欲望に駆られる腰を何とかこらえ、動きを止めた清次が、埋めた首脇で問う。 「……いいか、ら……動けよ」 京一の中が蠕動して、収縮するようにうごめいた。 「そう…か?」 「……ッ……ハァ…」 浅い呼吸を繰り返しながらも、京一が奥深くに納めた清次を貪るようにして締め付ける。 「…して…いいぜ、もっ…と。壊れねぇ…て…言った、ろ」 躰の中で煮えたぎる快楽を追おうとして絡みつく。 清次もそれ以上はこらえきれずに律動をくり返し始める。 いつもは体温が低いはずの京一の躰は、もうすでに燃えるような熱を放っていた。 逞しい躰のそこかしこには、再び、うっすらと珠のような汗が浮かんでいる。 「……京一」 名を呼ぶ間にも清次は突き上げる腰の動きを止められずに、組み敷いた躰を貪り続けている。 「……ぅ」 清次を奥にくわえこんで感覚を追う京一の眼には、快楽の色が濃厚に滲んでいた。 ゆっくりと頭を振った京一の双眸は情欲に潤み、全身で快楽を受け止めるその表情は艶さえも帯びている。 初めて見る京一の顔。 「京……いち……?」 そっと名を呼ぶ清次の声が震える。 当然と言えば当然だが―――抱かれている京一を見るのは初めてだった。 あの冷静な男がここまで奔放に感情をさらけ出して快楽を貪るのかと驚愕した。 と同時に、たまらない気分に陥った。 抑えのきかぬ感情が清次の中に吹き荒れる。 清次を受け入れながら深く息を吐いていた京一の背中。 抱かれることをすでに知っていた京一の躰。 他の男にも抱かれているのか。 そいつらに抱かれる時にもこんな眼を見せるのか。見せているのか―――。 ごふり、と腹の底が煮えくり返る。 頭の奥がジリジリと白く灼けただれる。 他の男と寝ていてもいい。 京一に手綱をつけられるほどの男はいない。 それならば。 ―――そばでずっとお前を見ていられるんなら……いい。 そう思っていたのに。 自分に言い聞かせても、どす黒い感情がざらつく。 どうしようもないほどに膨れあがっていく。 ―――京一。 他の男にもこの躰を。 抱かせているのか―――京一!! 「どうした。デカくなったぜ……お前の」 清次の怒りを躰の奥で感じたのか、見上げた京一がにっと嗤った。 「………」 返礼だとばかりに清次が無言で強く突き上げる。 「……ぅぐッ……は、ァ……ッ」 愉悦の声を放った京一の背がたわんで、ぐぅっと仰け反った。 視線を宙に揺らすその双眸は、鋭い快楽の色に染まっている。 そんな京一に、清次が切なげな視線を当てた。 冷酷な顔で仲間を切り捨てるお前と、自堕落な快楽に身を浸すお前。 ―――どっちが本当のお前なんだ。京一。 俺がチームのセカンドだから俺に打ち明けてくれるのか。 たとえそれが既にお前の中で決定された事であったとしても。 その結果をただ俺に伝えるだけであったとしても。 俺がセカンドという位置にいるからか。 だから俺はお前の傍らで、お前の背を見つめることを許されているのか。 俺がお前に取って不要なものになれば。 さっきのあいつと同じように俺の事も切り捨てるのか。 ―――京一。 『―――どうした、走らねぇのか』 そう言ったあの夜の、射すくめるような冷たい眼差しを思い出す。 『―――やる気が起きねぇだと?』 なにげなく尋ねる風情でありながら、その眼は妥協を許さぬと清次を見据えていた。 思い出すたびに、背筋を悪寒が走る抜ける。 その同じ京一が。 こんなにも―――躰を熱くたぎらせて。 火のような呼気を吐く唇。 男を受け入れて貪欲に快楽を追う躰。 与えられる快楽に染まった双眸。 ―――たまらねェ……よ。 「―――う……ッ」 京一が反応する場所を突き上げながら、清次自身も鋭い痺れを得て低いうめき声をあげる。 「……はぁ……ッ」 躰の下の京一から、こらえ切れぬような息が洩れた。 「きょう、いち」 腕の中の熱い躰を強く抱きしめる。 「………」 呼びかけられ、抱き寄せられた京一の視線がふらりと清次の上をさまよった。 情欲を満たして熱くぬるむ双眸。 「俺、の―――」 その先を口にすることは叶わずに、清次は貫いている躰へと想いを叩き付ける。 「う……あぁッ」 跳ね上がる躰を強く押さえ込む。 清次は荒い呼吸を吐きながら、狂おしいものを浮かべた眼で京一をじっと見つめた。 「俺を見てろ、よ。……な?もっと…よくしてやる、から」 その言葉にゆるりと向けられた視線。 虚ろな両の眸には清次が映りこんでいる。 その全身に清次を感じて。快感を滲ませて。意識を遠くに浮遊させて。 もっと奪おうと貪るように絡みつく。 京一の。 熱い、躰。 「俺の………」 ―――京一。 ずっとそうしていてくれとは言わねェ……言えねェ。 だから―――今だけでいい。 俺の事だけを考えろ、俺だけを感じていろ。 今だけは俺のものだ……京一。 いや―――。 京一は今この時でさえ、俺の事を思ってはいないだろう。 おそらく、きっと。 京一を満たしているのは快楽だけ。 それでもいい。 今この時だけは俺の与える快楽におぼれろ、京一。 俺に、ではなくともいいから。 俺が与える快楽に―――おぼれてくれ。京一。 「………京一」 愛おしげに唇の上で名を呟くと。 清次は更にいっそう京一の躰を突き上げて、渦巻く欲望の中へと没頭していった。 |
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