Stigma


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 京一の片耳に剥き出しのまま晒されているごく微かな穴は。
 どんな意味も持たぬただの傷痕だった。
 過去に捨て去って久しい現在の欠落であり、どんな未来をも待たぬただの空白だった。
 以前は確かに。そこには何かが在った。だが。

 何がどのような形で色で填っていたのかは既にして記憶になく。
 何処の誰の繊手によるものだったのかも遠い昔に忘却し。
 何故そんな運びになったのかも覚えてはおらず。
 何時そこに飾られて何時その光が消え失せたのかも定かではない―――。

 膨大な情報と記憶を蓄積し、自在の取捨が可能な京一に。
 思い出すすべがない筈もなかったが、それらの小石を蹴り込んだ場所への道しるべを。
 これまでの時の中のどこかに何らの感慨もなくふいと置き去りにして来たままに。
 それが無意識なのか故意なのかを知る由もなくまた知るべき必要もないままに。
 何かに振り返って立ち止まり何かに気付こうとする事も何一つせぬままに。


 その、情の欠片がどこかに吹っ飛んでからはもう随分と長い時が経過していた。