Toilette-トワレ- |
眼前には、芳香を放つ液体が閉じ込められた多種多様な瓶が並んでいる。 だが、彼が最前から飽くことなく視線を注いでいるのは。 10ml、1,500円。 50ml、6,000円。 100ml、9,000円。 ある一種類の同じ外見を持つ、サイズと金額のみが違う瓶である。 後は、手を伸ばして選び取り、金を払えばいいだけだった。 もしくは、このまま踵を返してこの場を立ち去る選択肢も彼には残されていた。 円錐形の深紅の小瓶。 『Fahrenheit』 チロチロと揺らいで燃える埋み火のような彩だった。 奥深い森林に吹き渡る一陣の風のような香りだった。 去年。街のそこかしこが、赤や緑のデコレーションそしてイルミネーションに飾られ、街全体が浮き立っていたあの時期に。 「FRAGRANCE AVENUE」―――フレグランス・ショップの店頭で。 意地の悪そうなそれでいてどこか楽しそうな顔で笑う、涼介に面白半分で吹きつけられた。 |
![]() |
![]() |